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15/12/26 1日遅れで更新できました。 1年間のご愛顧に感謝申し上げます。みなさまどうかよいお年を!

 ■ああ今年も暮れてゆくか。
クリスマスを過ぎたばかりの街は、年の瀬までの僅かな時間、どこか寂しげな顔を見せます。
今年は安保法案の強行採決を筆頭に、責任者不在のまま進められた原発再稼働や、誰も責任をとらない年金運用による10兆円規模の損失、はたまたオリンピックという利権に群がる人々の在り様など、権力の横暴というものをこれでもかと見せつけられた挙句、パリでの多発テロと、命の価値には実は大きな格差がある のだという事実の前に打ちのめされた年でした。
私たち古本屋の扱う「本」の多くは、時々刻々と進む価格競争の渦中にあり、一方で、人が一生かけてもやりつくせないコンテンツを搭載した掌に収まる機器ひとつに駆逐されて、グーテンベルク以来550年を経て気息奄々、明日にはもう息絶えると云われても不思議はないと思えるほど、状況は芳しからざる方向へとまた歩を進めたように感じた1年でした。
だからといって、「本」というものを何か特別なもののように祭り上げたり、本を大切にしようという良心をわけ合うようにして結ばれる人の繋がりというものについては幾ばくかの違和感をもってしまっていて、本を扱う仕事の末端に連なりながら、崇め奉られる「本」とその周辺のモノ・コト・ヒトとのほとんどに何もできることをもたない自分は、も はや完全に古本屋失格ではないのかと考え込む日々が続きました。
屈託や迷いを抱えて出かける市場では、迷いがそのままモノを見る目と札とに反映されて、良い結果の出ようはずもなく、正直に云えば、これほど苦しい1年はありませんでした。靴下1足買うのも躊躇っていた、あの創業当時の極貧の時代よりもずっと、苦しい1年でした。
その苦しかった1年が暮れてゆこうとしています。2015年の営業も、26日(土)と29日(火)を残すのみとなりました。週が明ければ慌ただしい年末です。お忙しいなか、ご来店下さるお客様がいらっしゃるとすれば、私はお客様の背中を静かに見送る年末にしたいと思います。

今週は洋書会歳末市、東京古典会、そして明治古典会クリスマス大市とそれなりに気持ちを引き立て、闘志なんてものまで動員すべく努力して3回も市場に出かけながら、買い引きを除き、入札したのはわずかに2点。たったの2点きり。こんな年末はもちろん初めてです。
応札した2点の内、1点は相手の札を突き上げて終わり、落札は1点きり。最初の画像、江戸時代・文化年間成立という旧蔵者の見立ての書き込まれている型紙 の台帳がその落札品。型紙の文様を紙に写し取り、それを分類し、ノンブルをふって控えにしていたもので、和本1冊に全てデザインの異なる691点が貼り込んであります。
この種の台帳では、墨一色、或いは墨、藍、茶などせいぜい数色を使うのが一般的なのに対し、この台帳、型紙毎にほぼ全色微妙に色が違うのではないかという ほど微細に異なるさまざまな色を使用。また、型紙や柄によって小紋、中型、京型、筋染、更紗など、性格の異なるデザインを分類した上で1冊にまとめている のもこの台帳の特徴と云えそうです。
特筆すべきは更紗文様の見事さ。柄が大きく色彩も鮮やかな名物裂の系統から、まるでソレイアードのひきうつしのような細かな柄をデザインしたものまで、もしこれが布の現物だと仮定すると相当なお値段になるはずの80点。センスのよい粒ぞろいのデザインに、思わず「お見事!」と声をかけたくなります。

 もう1冊、染元の手で「慶応卯年」と記された小紋の型紙台帳との2冊での落札で、こちらは全体に渋いデザインの278点が貼り込まれています。
フランスの縞の生地見本でも同じようなことを書きましたが、小紋の柄も無限であると思わず唸りたくなる2冊での落札でした。

■お次は2週間ほど前の大漁の時の落札品から。小店では4度目くらいの扱いになるでしょうか。但し、ここ5~6年はとんとご無沙汰でしたので、久しぶりの入荷となりました。
イギリスの演出家にして舞台美術家、かつ演劇理論の分野でも活躍したゴードン・クレイグによる木版画による作品集『Portraits  HENRY IRVING ELLEN TERRY By E. Gordon Craig』。肖像の対象となったエレン・テリーは名女優として知られた人でゴードン・クレイグの母ヘンリー・アーヴィングはテリー演じるオフェリアの 相手役・ハムレットで成功を収めた俳優で、友人だったブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』を書く際、その風貌が参考にされたことでも知られている、 ということを、私はもう随分以前にお客様から教えられました。この木版集に現れる正面を向いたアーヴィングは、確かに吸血鬼を思わせる風貌です。
それはさておき、ゴードン・クレイグの版画は大胆な省略、ストイックな色の使い方など、こてこての具象趣味の傾向の強いイギリスにあっては異質かつモダンで、小店店主としては好みの筋です。
まるで洋書のように見えるこの本、実は『複刻叢書 其二』のタイトルで昭和2 (1927) 年に丸善から発行されたれっきとした和書。以前、本国のオリジナル版も扱ったのですが、確か判型も装丁もページ構成もまるっきり一緒だったと記憶します。 ゴードン・クレイグが主宰していた雑誌『マスク』は日本の文学者・演劇人にもよく知られていただけに、こればかりは無許可でなかったはず…???

■今年もまた、多くの方たちに支えられて、どうにかこうにか古本屋の仕事を続けることができました。このような場しかありませんが、心より感謝申し上げる次第です。本当に、有難うございました。
今年初めて読んで、この1年、折に触れ読んでいた1篇の詩を置いて、年内の更新を打ち上げたいと思います。
暖冬とはいえ、寒さも募ってまいりました。みなさまどうぞくれぐれもご自愛下さい。
そして、「よいお年を!!!」
「のちの時代の人々へ」ベルトルト・ブレヒト
http://blog.livedoor.jp/kodama1872/archives/51451094.html

 

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