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16/03/05 ホールヴァインほかドイツのグラフィック・デザインと日本工房の戦後の仕事から

 ■「いくら買いたくなくても買う。売れなくても買う。とやかくいわずに買う。後先考えずに買う。ただもうひたすらに買う。」- それにしてもなぜこうまでしてお買い物しないといけないのか。時々自分でもよく分からなくなるのですが、そうでもしないと続かないのがこの仕事であります -というのをやっと実行に移す気になって、多少は成果も挙げられたような。スランプ脱出となるまでには全然まだまだではあり、青息吐息の今週の新着品であります。

何を思ったのか石油タンカーの本です。苦し紛れ、と云えるかも知れない石油タンカーの本であります。『S.S.Veedol - SUPER OIL TANKER』。1957年、アメリカのタイド・ウォーター・オイル社発注の大型タンカー「Veedo」と「Wafra」2隻の建造を機に、三菱造船がその技術と施設とを海外にアピールするために作成した全編英文による上製本。企業PR用の印刷物というのは一般に出回らない上に、これはさらに海外向けとあって、なかなかお目にかかれないのも道理と云うもの、戦後の発行ではありますが珍しい本(…のはず)で小店初の入荷です。もっとも、石油タンカーの本がそう度々入荷する古本屋というのがあったら、そちらの方が珍しいのですがそれはさておき。
甲板から下を見下ろす人間の姿が何と小さく見えることか。仰角でとらえた大型タンカーの舳先が、ロゴマークの鋭角とともに構図の頂点をなす力強い写真が、 英文のデータのスマートな印象と相まって、いやでも目をひく扉近くの1P(画像中、一番左のページ)に、まずページを繰る手がとまりました。どうもタダものとは思えない。本文56Pのほとんどがグラビアで構成されているのですが、背景に薄いオークルで写真図版をひいた上からスミ版の写真をのせるという2色 刷りの手法も手慣れたもの。
それもそのはず、最終ページに記された実に控えめなクレジットに目を凝らすと、「Edited by NIPPON KOBO Co., Ltd.」とありました。名取洋之助率いる日本工房の仕事だったというわけです。名乗る前から才気が伝わる。名前の残る人の仕事とは、どんな分野でもそういうものなのでありましょう。
正方形に近い当書の判型とサイズ、何かに似ている気がしていたのですが、日本工房と知ってこれまた納得。1938年に日本工房が制作した『日本』に限りなく近い。現物を測定すると当書は30.5×26.5cm。『日本』の方はと調べてみると、27.5×30.5cm!名取にとってこのサイズが 作り込みやすかったのか、或いは感覚的に落ち着くということだったのか、こうしたところに共通点が現れるのも面白いところだと思います。
かつて、日本の主要産業と云えば鉄鋼と造船とされた時代がありました。1957年、戦後の高度経済成長期の入り口にあって、造船業にも勢いが見えてきていたはずです。花形産業にすぐれたデザインあり。『S.S.Veedol - SUPER OIL TANKER』は造船業華やかなりしの証拠品のひとつです。

 ■グレーの台紙に糊貼りされたフルカラーの大判図版に欠けが多いのが惜しまれてならない『DIE DEUTSCHE WERBE GRAPHIK』。ドイツの優秀なグラフィック・デザインを選び論じた同書は、1927年、ベルリンの版元から出版されました。
戦前ドイツのグラフィック・デザインで筆頭に挙げられる人がルートヴィヒ・ホールヴァイン。後にナチス党員となり、プロパガンダでも活躍したホールヴァインの、ここでは至って穏当な仕事を巻頭カラー図版に多数とり、続いてルツィアン・ベルンハルト、ユリウス・クリンガーと云う超一流どころの作品をおさめ、 さらにルイス・オッペンハイム、ユップ・ヴィールツ、パウル・ショイリヒ、ユリウス・ギプゲンス、ハンス・イベなど、とくに第一次大戦後のドイツ・グラフィック・デザイン、コマーシャル・デザインの第一線で活躍したアーティストのポスターを中心に、その代表的な作品を網羅。刊行当時はちょうど世界的にもポ スター芸術の黄金期と云える時代にあたりますが、この当時のドイツのグラフィック・デザインをおさえるためのマスターピースのひとつと云える、とても充実した内容の1冊です。

■上記の2冊と『美術海』21巻~23巻・各改装本(上左に画像があります)と『美術世界』18巻は3月5日に店に、戦後の海外旅行関係資料2箱分、江戸・明治の藍染現物約30点、石版刷の壁紙見本現物貼り込みのあるインテリア洋書他古いビジュアル系洋書3冊、こちらはプレート枚数を確認して抜けがなければ来週ご紹介する予定の『Great Ideas of Western Man』5冊などが来週木曜日に店に入ります。

『DIE DEUTSCHE WERBE GRAPHIK』について調べるのに、展覧会の図録『ドイツ・ポスター 1890-1933』を引っ張り出しました。ナチス党員でありプロパガンダを担ったホールヴァインが戦後戦争協力者として約1年の業務停止を命じられたものの1949年に亡くなるまで制作を続けたのに対し、ユダヤ系を理由に1942年ミンスに送られたクリンガーは以後消息不明なのだとあります。対照的な二人の命運から、改めて同図録の作家略歴を見ると、1930~40年代、とくに終戦前後に亡くなった作家や没年不明の作家が少なからず居ることに気付きました。古本屋の仕事は買い物ぢごくではありますが、それ以上に、常に歴史とともにある仕事です。
今週のななめ読み。
上はきちんとおさえておくべき史実、下ふたつはどうにも理解し難い現政権を背景に進行している、注視すべき歴史の断面。
http://synodos.jp/international/16290
http://www.asahi.com/articles/ASJ3355J2J33UTIL01N.html
http://tanakaryusaku.jp/2016/02/00013085

 

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