#205 6-1-6 Minamiaoyama Minatoku TOKYO
info@nichigetu-do.com
TEL&FAX:03-3400-0327
sitemap mail

detail

16/10/22 マヴォ同人・牧壽雄のモダンな木版刷図案集『新希臘派模様』と西陣・井筒屋 伊達家の明治期初出資料一群ほか 新着品、入荷しています。

 ■今週初めに更新しますというお約束を反故にしたまま、あっと云う間の一週間。 「隠す/隠れる」の続きは後にして、先ずは今週の新着品から。
小店ではお馴染みの木版刷りの図案集ですが、これは初めての入荷。牧壽雄の著書で、京都の内田美術書肆が昭和2年=1927年11月に発行した『新希臘派模様』です。
B5サイズの経本仕立て、25面・38図。題箋を貼っただけの布装上製表紙を開くとすぐに、こちらの方が表紙らしく見える3色刷りの扉が現れ、続いて著書の短い序文が現れます (テキストは序文のみ)。1927年9月付の序文によると、「新希臘派」なる名称は、バウハウスでお馴染みのグロピウスが、同年6月、ベルリンで開かれ、 「衣裳設計家の間に新しい反動を惹き起こし」たイワノフ夫人の図案展対して与えた「批評的賛辞」であり、牧壽雄による当作品集は「グロピユース氏の所謂新 希臘派の主張といふものに根拠を置いた最も日本的なデイヴアイス」だと云います。
この場合は、趣向とか技巧といった意味で使われたものだと思われますが、1927年にまさかの「デヴァイス」。こんな言葉を巻頭序文に織り交ぜて見せるモダーンな御仁・牧壽雄とは何者ゾ。いまやマイナーメジャーの代表的存在となりつつある戦前日本のダダイスト集団・マヴォ。牧壽雄はその同人で、当書に 先駆けること半年、1927年2月には、タイトルからしてそのものずばり『MAVO染織図案集』を出したりもしております。その数年前には神戸で展覧会を開催するなど、関西を舞台とした活動が知られている人。
生没年や出生地など経歴詳細不明なれど、マヴォイストとして名前を残した牧による『新希臘派模様』は、数多ある同時代の木版刷図案集の中でも突出してモダンかつクール。かつて数回市場で目にしただけですが、『MAVO染織図案集』に比べても-希少性の点ではかないませんが-作品としては一段と、と云うより一足飛びに洗練された印象があります。
それにしても、1927年6月のベルリンで開催された展覧会の情報を、牧は一体、どこから・誰から・どのようにして-おそらくは詳細に - 知ったのか。実はこの点が一番気になるところですが、一夜漬けでは到底回答にはたどり着けないのでした。ああ、そんなのばっかり。反省…。


 こちらも京都から。少し前に落札していたのを、やっと少し詳しく見ることができました。入札用の封筒に「初出し資料」と書かれていた京都・西陣の名匠、美術織物で知られた井筒屋・伊達家の旧蔵品の一括です。
いくつかの資料に「伊達弥助」「京都西陣本伊達」等の記載があること、明治20年代の日付が比較的目につくこと、内蔵寮の封筒・宮内省の便箋で、領収証を送るようにと指示する書簡が「帝室技芸員 伊達弥助殿」宛てとなっているなどから、主に5代目の伊達弥助が作成・蒐集したものと見られます。「明治以降,西陣織物業界は技術革新を積極的に追及する ことで新時代を乗りきろうとした。四世・五世の伊達弥助はその象徴ともいうべき人物」であり、北野天満宮北門前には5代目を称える石碑「西陣名技碑」が 建っているとのこと。全て落札後に分かったことですが、なかなかの資料を手に入れてしまったようです。
資料はみかん箱ひとつに収まるかどうかというくらいの量。「今般新色手本」等染色見本帖(絹布サンプル多し)、「新形小紋帳」等小紋柄見本「紋本帳」等 図案控え(肉筆本含む 着色多し)など和綴じの控えや見本帖を中心に、下絵、切り絵、模写、手習い帖、そして書簡から成るもの。最も重要と思われるのが「仮裂本帳」と書かれた2冊。伊達弥助を名匠に押し上げた友禅染を施したビロードや伊達錆織と目される織物の断片、府立図書館に納品したとの書き込みの残る絹織物各種 (いずれも比較的大きなサイズ)など、明治~大正期に織られ染められた裂、或いは手本として集められたさらに古い時代の裂の現物が多数収められています。中には、裂と台帳とに割り印を押したものなどもあり、 厳重に管理されていたことが伺えます。能書きなど別にして、繊細で表情豊かな裂は見ているだけで唸る素晴らしいラインナップ。2点目の画像は2冊の「仮裂本帳」より。下の横長の方は19×71cmと実際大きなものです。
また、一緒にまとめられていた書簡には、内蔵寮から伊達弥助宛てのものの他、伊達虎一宅気付・山中治郎と云う人に宛て、間部時雄から送られた書簡があり、 こちらはもっぱら集金 (金額明細入り) に関する連絡ながら、間部が浅井忠の助手だったとすれば当時の画塾の月謝や画材経費などが伺えて面白い内容です。また、伊達家一門と思われる虎一は1900年パリ万博視察の体験を『欧羅巴視察日記』と云う私家版に残しているようです。ちなみに伊達弥助は日本政府により技術伝習生としてウィーン万博に派遣され、 オーストリア式ジャガードを導入しています。
この井筒屋・伊達家資料、来月18日には締め切りがやってくる合同目録に掲載する予定。何をポイントに、いくら付けるか … 古本屋の仕事のキモに照らす時間がまだまだ続くことになりそうです。


■今週はこの他、手札サイズの写真1袋、古い切り抜き帖2冊、バレエ・リュス展覧会図録、シュルレアリスム、ジョン・ケージ関係洋書5冊、そしてレコードと箱欠が残念ですが、マルセル・デュシャンとジョン・ケージの『REUNION』が再入荷となりました。

さて、「隠す/隠れる」のおはなし。これが書き始めると実に長くなる。困った。来週以降、何度かに分けて書いていこうかと思います。以下、今回はその前段。
- モノのありか。モノゴトのありよう。意味。価値。値段 etc. 情報革命というものが、こうしたことのすべてをあからさまにする時代です。
どこにいても何時でも買い物ができる・楽しめるようになりました。すべてがあからさまにされた時代には、しかもそれを安心して行えます。
新刊書店、古本屋、カフェ、ギャラリー、雑貨屋…そうした店の区別ももはやナンセンスです。お客様の側だけでなく 経営する側の意識もまた、区別を必要としていないようです。
本を読むと云う行為が 極私的な行為であると云うより ある人との/仲間との/世間との 共通体験として求められるようになってきました。
大量にでまわった情報が、ものごとの優位性を決定づけるなかで私たちは仕事をしています。
……… さてさて。
こうした状況から逃れる術はないのか!
この一年半ほど、考え続けていたのはそのことでした。一度営業を休んで、店のことをもう一度考えよう。そちらの方へとかつてない強さで私の背中を押してくれたのは、ドクターペッパー片手に飲みながら店に入ってきた爽やかなイケメンくん二人でありました。(つづく。予定。)

inquiry 新着品案内 / new arrival に関するお問い合わせ

お名前 *
e-mail address *
お電話番号 *
お問い合わせ 件名
お問い合わせ 内容 *
  * は必須項目です)

recent