■早いもので今年ももうすぐお盆。曜日の関係で今年は夏休みも比較的短めの方が多いというのに小店ときたら …… 大変申し訳ない次第ですが、8月11日(水)から8月16日(月)まで店はお休みをいただきます。明日、7日(土)と来週10日(火)は12時~20時で営業いたします。また、17日(火)からはいつも通りの営業に戻ります。夏休みの間も市場に行ったり、またしても溜まったままの雑務の整理が待っていたりで、結局いつもと変わらず過ぎていきそうな一週間ですが、せめて少しは体を休めて、また店に戻りたいと思います。みなさまどうか楽しい夏休みをお過ごし下さい。
■夏休み直前、恒例の今週の新着品のご紹介です。先ずは明治26(1893)年、長谷川契華著『契花百菊』。多種多彩な菊の品種を多色刷木版で紹介したもので、『巻之一』と『巻之二』の2冊が入荷いたしました。32×22.5cmと比較的大きな版型で、『巻之一』『巻之二』ともにそれぞれ多色刷木版25図を所収。この調子でタイトルにある“百菊”図を発行したとすれば、全4巻が発行されたはずですが、国立国会図書館の所蔵冊数や「日本の古本屋」などから見て、実際に刊行されたのは3冊までだったようです。現在でも、愛好家が丹精した菊の品評会が各地で開催されているようですが、菊の栽培は江戸時代に流行、この頃から品種改良された新花の品評も行われたという古くから続く趣味のひとつで、当書が発行された明治時代には、大輪を競う傾向にあったとか。市場で先ず目をひかれたのもやはり、紙面いっぱいに描かれた「大菊」の大胆な構図と迫力 - とくに横見開きいっぱいに描かれたものには瞠目 - にありました。
「菊」と聞いて先ず思い浮かぶ辛気臭いイメージや、絵葉書でお馴染みだった菊人形のあの独特のキッチュないかがわしさとは全く無縁であるばかりか、アール・ヌーヴォー華やかなりし同時代ヨーロッパの植物画や植物図案と比べてもこちらの方がモダンではないかと思うほどです。波濤がぶつかり合うように多方向に白い花弁が開く「打合浪」、黒に見紛う深い紅色をした「濡烏」、紅白の花弁が大輪を二分する「源平」など、ネーミングの妙も。ちなみに左の画像中、左から2点目の名前は「清涼殿」。ささやかながら、暑中お見舞いに代えての新着品です。
■『ウヰンドータイムス第二号』は銀座・ウヰンドータイムス社が大正6年6月発行した、ショーウィンドー装飾を中心とする商業美術専門雑誌。内容の性格上、カラー石版刷のサンプル図案や実例写真など多数の図版が楽しい雑誌です。巻頭記事はこの当時大阪に移っていた三越の宣伝マンで、「今日は帝劇、明日は三越」の名コピーの生みの親・濱田四郎による「ウヰンドーの鑑査標準」。“ウヰンドーの出来栄えを論評して甲乙を付”すコンクールが流行し始めていたのに対し、主観的かつ多様になりがちな評価に明確な基準を提案するもので、当号は連載の2回目分。ニューヨークの百貨店で採用されている採点表などを交え、理路整然と評価への道筋を考察しています。同じ三越の宣伝部から、松宮三郎は上林機峯なる人物を相手に広告における作家本位主義と商売本位主義をめぐる論争をふっかけ、アメリカのポスター・アドバタイジング協会における講演「ポスター芸術の発展」を翻訳して紹介し、「ウヰンドー陳列は最も強き暗示広告なり」ではアメリカの例をひきながら暗示広告の成功事例とともに心理的側面を解説 … といった具合で、日本の広告界がすでに相当なレベルで成熟していたことを思わせる内容です。三越、松屋、いとう呉服店、クラブ化粧品などと並んで、ウィンドー・ディスプレイ専用什器を扱う商店の広告も写真入りで散見されます。大正6年といえば西暦1917年。維新から半世紀を経て、ショーウィンドーが都市を飾り、飾り窓が遊歩者を集め、広告意匠家は遊歩者へのメッセージに趣向を凝らす、西欧先進諸国の都市像に追いつきつつあった日本の姿がこんな雑誌の1冊からでさえ、透けて見えてくるようです。
■今週はこの他 … … の続きはまた来週、当新着品ご案内で。店は夏休みですが当新着品の更新は無休でまいります。休みといえどもお忘れなく、またHPもご高覧いただけますよう、徹頭徹尾勝手ながらのお願いを申し上げまして、夏休み直前の新着品も「打ち止め、うちどめぇ~」。