■仙台では震災後3日目にはもう、スーツ姿で自転車に跨り、ガレキのなかを会社に向かうサラリーマンの姿があったと聞きました。避難所生活も、足元がこうも度々揺れるのも、原発事故と隣り合わせの日常生活も、確かに外国人には理解し難いことだと思いますが、しかしそれ以上に、このシュールな - とでも呼びたくなる - 風景は、私も「何をそこまで。」と思うほど。日本人がかくの如くすっかり飼いならされる前、日本にだってかつてはあった「政治の季節」に関係した書籍が今週の1点目。『POSTERS FROM THE REVOLUTION Paris, May 1968』で、1969年にイギリスで印刷・発行、ポスターを中心に、巻頭にテキストとデータなどが収められています。ポスターからテキストまで、著者は誰かというと、これらのポスターを生み出した工房「アトリエ・ポピュレール」であり、ポスターの方にも作者名なし。一貫して無名・匿名が貫かれています。内容はといえばタイトルでもお判りの通り、パリの5月革命の際にその時々のメッセージに合わせ次から次へと作られ、街に出て、人々にメッセージを伝えたポスターの図版を中心にまとめた書籍で、ポスターは学生が占拠したエコール・デ・ボザールのアトリエで作られたのだとか。巻頭テキスト中に置かれたポスターの制作風景を写した写真から、工房もまた戦いの最前線だった様子とともに、ポスターがシルクスクリーンで刷られている様子がうかがえます。当書に関していえば、ポスター部分は1色特色刷 - 一部シルクか - によるもの。尚、図版中の両面開きの写真は当書の見返し部分で、テキストの組版含め、全体的なまとまりにも優れた書籍となっています。図版中、下段左の赤い工場の建物に白ヌキで「MAI68」とあるのが当書の表紙、写真は見返しで、他のイラスト図版が全て当書所収のポスター図版となっています。
■実験工房の主要メンバーであり、我が国メディア・アートの先駆者のひとりである山口勝弘の著書『不定形美術ろん』。「ろん」は間違いなくひらがなで、1967年、学芸書林発行の初版本です。すでに「戦後」から離れた時代・意識を背景に、不定形状態にある都市・東京においてのみ可能な芸術を考察しようとする試みは、絵画と彫刻、或いは音楽などの既存の芸術カテゴリーに留まらず、この当時の新しい芸術潮流だったハプニング、光や展示、さらに料理や美容・変身などを含みつつ、現在にも通じる多様な問題を抽出しています。各章別の図版を中心に、章末には比較的長文の山口の論考が必ず付される構成です。
つい先日、中原祐介、吉村益信の逝去に触れましたが、その後さらに、瀬木慎一、そして多木浩二と続いて亡くなられました。これもまた、時代の転換期との符合なのか、批評の不在とともに美術本体が細っていくようなことがないようにと願います。
■今週はこの他、海外旅行案内関係2口2箱(店頭に出すにはまだ少し時間がかかります)、工業デザイン関係専門誌『造』約20冊、雑誌『デザイン』が創刊号の方から約10冊などが入荷。また、入荷したまま値付けの遅れていた『ゲルブラウスグラフィック』、『リリュストラシオン』他戦前洋雑誌に値段がついて漸く店頭にお出しいたしました。