■色々とご心配をおかけしております じんましん ですが、ステロイドの服用を1日6mgに減らしたこの一週間も、お陰さまで無事、乗り切ることができました。この土曜日からはさらに4mg/1日へと服用量を減らします。これまでのところ、かゆみ も 湿疹もすっかり息を潜めておりますので、「この一週間もきっと大丈夫。だいじょーぶ。だよね?ねねね?」と自分の心身を相手にしてよくよく言い聞かせているところです。店で、市場で、メールを通して、「調子はどう?」と声をかけて下さるみなさまの励まし - 本当に有難うございます!- を支えに、今週も何とか無事に乗り切ってみせたい。とそう思います。
■何だか先週の続きのような具合になりますが。いや待てよ。本を装丁で買うのは何も昨日今日始まったことではなく、しかしそんな小店あるじが久しぶりに思わず唸ったというのが『航空小説 エキパージュ』です。画像中の上段がカヴァー、下段がカヴァーに隠れていた本体の装丁ですが、装丁者の記載は見当たりません。著者は『昼顔』で知られるジョゼフ・ケッセルで、『エキパージュ』は若き戦闘飛行機乗りの恋と戦いと死を描いた長編小説。昭和5年、アルス社からの出版されたものです。アルス社の昭和5年といえば、『新露西亜画観』やトロツキイの『自己暴露』など、恩地孝四郎が同社の出版物の装丁に深く関わっていた時代と重なっている上、そうした時代のなかでもとくに、ロシア構成主義的傾向に極度ともいえる傾倒を示す装丁を次々と生み出していた時期と重なります。カヴァーや本体の背に配された黒い円の意匠、たて組よこ組といった一般的ルールを度外視した文字組みなど、この当時の恩地風テイストを随処にまとったこの『航空小説 エキパージュ』も、恩地その人による装丁の一冊ではないかと推測しているのですが、さてどんなものでありましょうか。
■近代へと踏み出して以来約半世紀ほどの昭和5年=1930年代初頭、極東の小さな島国で、欧米の尖端意匠やモードが写されたり移されたりさらに進んで咀嚼され消化されたりした結果、『エキパージュ』のようなものが実はたくさん生まれていて、それは例えば1926年に公開されたフランスの流行映画の豪華パンフレットに見られるキュビスムの意匠 - パリの街角を飾ったに違いない映画のポスターとも同じデザインです - と比べても遜色がないか、ヘタをするとそれよりモダンな成果さえ得られていたというのは、デザインを手掛けた個人の能力の成せる業であるとはいえ、しかしそれにしてもやはり驚かずには居られないのでした。
→ 1926年・フランス映画『カルメン』の初演時の時のものと思われる石版刷・メニュー紐仕様の豪華なパンフレット。写真多数の他、石版刷のイラスト背景画も。表紙は4種類つくられたポスターの内の1点と共通のデザインが使われている。
映画はアルバトロス社製作・ジャック・フェデール監督によるもので、主演はラケル・メレが務めた。
■と、体裁を整えるべくいくら尤もらしいことをいってみたとこで穴だらけ隙だらけであることはご覧の通り、要はいささか度が過ぎる店主の好き嫌いで品揃えが決まってしまうのが日月堂という古本屋でして、で、やはりここのあるじの場合、機械主義、構成主義あたりに弱いらしいということが、例えば左手の画像『昭和12年 軍艦高雄津 記念写真帳』なんていうものまで仕入れてしまうということからもお判りいただけるに違いありません。
←ちなみにこちらは「第二艦隊司令部検閲済」の非売品で、昭和12年に発行されたものです。
大連の街並みなども出てきます。
■今週はこの他にも、建築設計からインテリア写真、装飾図案のリーフセットなど建築関係の洋書が約30冊、他にもまだ『エキパージュ』のような装丁本が出てきそうな戦前の黒っぽい書籍約40冊、1970年代の内外切手コレクションがファイルなど10冊、最初のページ差別的に人間が扱われている銅板・手彩色による生物図鑑、軍人家庭旧蔵・明治~戦中写真はペーパームーンの記念写真などを含む小型段ボール1箱分、アメリカ共産党員ジョー・小出(鵜飼信道)の書簡数通 などが今週の新着品、明日には店に届く予定です。